1分将棋の16手
― 王位戦第6局、抜かせるための馬
第67期王位戦 第6局 (9/8-9 元湯 陣屋) を振り返ります。藤井聡太王位が140手で勝ち、4勝2敗で王位7連覇を決めました。
陣屋で7連覇
9月8日から9日、神奈川県秦野市の元湯陣屋でおこなわれた第67期王位戦七番勝負・第6局。
藤井聡太王位が後手番で140手で勝ち、シリーズを4勝2敗としました。 王位は7連覇、タイトル通算は37期になりました。
戦型は角換わり。持ち時間は各8時間の二日制です。 終局は9日の19時42分でした。
消費時間は、両者とも7時間59分。 8時間を使い切って、藤井王位は110手目から、伊藤匠二冠は111手目から1分将棋に入りました。 そこから30手あまりを、双方が1分の中で指しています。
藤井王位が陣屋で指すのは、これで4局目でした。これまでの3局は、すべて王座戦です。 王位戦では過去6度、第6局や第7局の会場として陣屋が用意されながら、いずれもそこまで行かずに決着していました。2019年の第60期以来、7年ぶりに盤が置かれたことになります。
封じ手の 4五銀打
1日目は60手目で封じられました。時刻は18時00分です。
藤井王位が封じたのは、4五銀打でした。考慮は21分。 この一手は、解析でも最善手と一致しています。
渡辺明九段は翌朝、Xでこの局面に触れ、4五銀打を「浮かびにくい手」と書いていました。 封じ手の1手前の着手が17時38分。20分ちょっとで、この手にたどり着いたことになります。
2日目が始まった時点で、形勢はほぼ互角でした。 長い午後が待っていました。
難解だった2日目
指し継がれてからの数時間は、どちらに傾いているのか分からない時間が続きました。
中終盤では形勢が何度も入れ替わりました。 しかも動いたのは、まずい手が出たときだけではありません。
最善とされる手を指しても、その次の一手で形勢が大きく振れる。 2日目に入ってから1分将棋に入るまでの間、そんな場面が何度もありました。 どちらかが崩れたのではなく、盤上がそれだけ難解だったのだと思います。
やがて形勢は、伊藤二冠のほうへ傾いていきました。 伊藤二冠の玉は盤の右上へ追われ続けていましたが、107手目の局面は勝勢です。
その2手後でした。109手目、伊藤二冠は2四に歩を打ちます。考慮は1分。 この一手で、形勢はそのまま入れ替わりました。本局で最も大きな振れ幅です。
渡辺明九段はXで、この一手を「一瞬のエアポケット」と評しています。
抜かせるための馬
逆転しても、勝ち方はまだ見えていませんでした。
122手目、藤井王位は角を2八へ成ります。1分の中の一手です。 ここから伊藤二冠の投了まで、18手でした。
渡辺明九段はこう書いていました。 「122手目△28角成から、この馬を抜かせる組み立てが1分将棋で指せるんですね」
選び続けた16手
逆転してからの終盤を、一手ずつ解析にかけてみました。
勝ちを保てる手は、多くの局面で1つか2つしかありません。 それ以外を選べば、そのまま形勢が戻ってしまう。そういう終盤でした。
藤井王位は、それを選び続けています。 109手目の逆転から投了まで、16手。すべて1分の中で指されたものです。
114手目の角打ちも、そのひとつでした。 このとき勝ちに通じる手は3つだけで、そのうちの1つを選んでいます。
この角は8手後に馬になり、王手馬取りをかけられて抜かれます。 それでも、勝ちは揺らぎませんでした。 抜かれるところまで読み切ったうえでの3九角打だったのだとしたら、もう畏怖に近い感覚です。
抜かせるための馬は、こうして選ばれた一手から生まれていました。
次のタイトル戦へ
3勝2敗で第6局を迎えるのは、これが5度目でした。 過去の4度は、いずれもその第6局で終わっています。5度目も、同じでした。
タイトルを獲得・防衛した37のシリーズのうち、決着の一局が後手番だったのは22回になりました。
次のタイトル戦は竜王戦七番勝負です。 10月9日・10日、東京都渋谷区のセルリアンタワー能楽堂で第1局。挑戦者は服部慎一郎七段です。
双方が持ち時間を使い切ってからの30手あまりが、このシリーズを終わらせました。 1分を積み重ねた二日間の終わりに、王位は7期目になりました。
- 60手目 — 封じ手の 4五銀打
- 109手目 — 形勢が入れ替わった 2四歩打
- 122手目 — 馬を抜かせた 2八角成
- エンジン
- 水匠5
- 探索深さ
- 14
- 最大変動
- 1308cp
- 形勢逆転
- 7回
- 解析手数
- 139手
評価値は当サイトの自前解析(水匠5(YaneuraOu NNUE 9.41git 64AVX512 TOURNAMENT)/探索深さ14)。あくまで参考値で、実戦の最善を保証するものではありません。棋譜・指し手は掲載していません。