王位戦67期 第3局
― 桂で断ち、桂で決める。藤井王位が登別で一歩先へ
第67期王位戦 第3局 (7/29-30 登別グランドホテル) を振り返ります。藤井王位が先手番で151手で勝ち、七番勝負は2勝1敗となりました。
登別で、一歩先へ
7月29日から30日、北海道登別市の登別グランドホテルでおこなわれた第67期王位戦七番勝負・第3局。
藤井聡太王位が先手番で伊藤匠二冠を下し、151手で勝ちました。 これで七番勝負は2勝1敗。藤井王位にとって、この地での対局は初めてでした。 温泉地から温泉地へと移ってきたシリーズで、初めての土地で先行します。
1日目に5時間を使った先手
戦型は角換わり。持ち時間は各8時間の二日制です。
異例だったのは、1日目の消費時間でした。 17時8分の時点で藤井王位の消費が5時間に到達し、記者室からは「初日で5時間以上は記憶にない」という声が上がります。 このとき伊藤二冠はまだ1時間22分。3時間30分もの差がついていました。
その伊藤二冠が、封じ手の1手に1時間2分を投じます。 18時29分、封じ手を書き終えて対局室に戻り、1日目が終わりました。 翌朝の開封は、副立会人の高見泰地七段が予想していた通りの一手でした。
105手目 ▲3七桂 ― 千日手を断ち切る
2日目の午前、盤上には千日手の影がちらつきはじめます。
104手目まで進んだところで、記者室の検討は同じ形が繰り返される順を示していました。 高見七段が「伊藤二冠としては後手番ですので千日手はありがたいと思います」と話していた通り、指し直しは後手にとって歓迎すべき展開です。
ここで藤井王位が選んだのが、105手目の▲3七桂でした。 34分の考慮。繰り返しの順に入らず、自分から形を変えにいく一手です。 成桂を取るときに駒を落としてしまったのは、この局面の重さゆえでしょうか。
打開の代償はありました。この直後、盤上の主導権はむしろ伊藤二冠に傾きます。 中段に構えた玉で入玉をちらつかせ、桂を打ち込んで金を狙う。屋敷伸之九段が「先手は入玉されないように攻めないといけないのでプレッシャーがありますよね」と話した通りの、嫌な形です。
114手目 △8四桂 ― 伊藤二冠が入玉を捨てた
流れが変わったのは、114手目でした。
39分の考慮で伊藤二冠が打ったのが△8四桂。金取りの攻めです。 上部を目指して玉を逃がす道と、攻めて勝負をつける道。伊藤二冠は後者を選びました。 屋敷九段は「後手は急に勝負に出た感じですね。入玉では駒数が足りないと見たのでしょうか」と評します。
ここから形勢は静かに、しかし確実に先手へ傾いていきました。 伊藤二冠が歩を成り捨てて迫るたび、藤井王位は金を寄せ、銀を引き、玉のまわりを整えていきます。 攻め合いに応じるのではなく、相手の攻めの速度を丁寧に落としていく指し回しでした。
受けきって、1七の桂
125手目、藤井王位が飛車と金の両取りに▲7二角と打ち込みます。 屋敷九段は「先手がよくなったと思います。反撃されたときにしのぎ切れれば」。 その条件を、藤井王位は満たしました。
伊藤二冠は両取りを受けずに香を打ち込み、最後の攻めをつなげます。 それを藤井王位は自陣に香を据え、桂を据えて受け止めました。 終盤で自陣に駒を打つ手が続いても、玉に迫るスピードが違っていました。
そして151手目、▲1七桂。 上部へ逃げる道を押さえたこの一手を見て、伊藤二冠が投了しました。 終局は18時49分。消費時間は藤井王位が7時間50分、伊藤二冠が7時間57分。ほとんど使い切っての決着です。
千日手を断ち切ったのが3七に跳ねた桂なら、幕を引いたのは1七に打たれた桂でした。 思えば第2局も、勝負を分けたのは4五に跳ねた桂です。このシリーズは、どうも桂が物語を動かします。
次は長崎へ
これで七番勝負は2勝1敗。両者の対戦成績は藤井王位の17勝7敗1持将棋となりました。
第4局は8月18日・19日、長崎県長崎市のガーデンテラス長崎ホテル&リゾートでおこなわれます。 北海道から九州へ、ほぼ日本を縦断する移動です。乗り鉄としても知られる藤井王位が、この距離をどう楽しむのかも気になるところ。
初めての土地で先行した藤井王位と、追う伊藤二冠。夏の七番勝負は、まだ折り返したばかりです。
- 105手目 — 千日手を断つ ▲3七桂
- 114手目 — 伊藤二冠が攻めに出た △8四桂
- 125手目 — 両取りの ▲7二角
- エンジン
- 水匠5
- 探索深さ
- 18
- 最大変動
- 381cp
- 形勢逆転
- 0回
- 解析手数
- 151手
評価値は当サイトの自前解析(水匠5(YaneuraOu NNUE 9.41git 64AVX512 TOURNAMENT)/探索深さ18)。あくまで参考値で、実戦の最善を保証するものではありません。棋譜・指し手は掲載していません。